スーパーの買い物袋を提げてドアを開けると、彼はいつものようにベッドを占領していた。
「ああ、お帰り」
「ただいま」
いつもの会話。今日何をしていたのかは知らないけれど、実のある一日ではなかったことだけはわかる。
それでもいたって呑気な表情をしているのは、ある意味さすがだった。
部屋に転がり込んできた兄とのエッチな同居生活
「今日のメシは?」
「寒くなったからね、鍋でもしようかと思って」
「お、いいねえ。」
亭主関白なタイプではないけれど、天性のグータラなのが彼だ。
一応の掃除や洗濯くらいはやってもらっているけれど、それ以外は大体あたし。それどころか、同居していながらこのマンションの家賃さえあたしもちだ。年中こんな調子の彼に、お金なんて払えるわけがない。
だけど、不思議と腹は立たない。あたしもいいかげんキレたっていいところなのだけれど、こういうのがもう、自然になってしまっている。
それに、家賃が払えない分、貰うべきものは貰っているから。
あたしは買い物袋をぞんざいにその辺に置くと、仕事着のスーツを脱いでいく。
下着姿や裸を見られることには、もう抵抗はない。大体、抵抗を覚えるような関係でもない。
「相変わらず恥じらいがないなあ」
「あんたがそれを言う?」
「…反論できねえな」
彼の声を聞きながら、あたしは下着すら床に放り出して、真っ裸になる。
暖房も効いているし、一日衣服に締め付けられた身体には、開放感が心地よい。
「さ、おいしいご飯、食べたいんだったらその前に…ね?」
「…お前、本当に好きだな…」
「もう一度言うけど、あんたがそれを言う?嬉しい癖に」
「まあ、そりゃな…」
そう言いながら、彼は寝っ転がったまま、下半身のズボンを下げる。
なんだかんだ言いながら、ち●ちんはすっかり大きくなっている。食前のエッチは習慣みたいなものだし、あたしのこういう姿にはたとえ嫌でも興奮してしまうのが彼の条件反射だ。
「聞き分けがよくてよろしい。さ、しよ」
「おし…来いよ」
彼の上に跨るなり、あたしは遠慮なく、ち●ちんに向かってに自分の股間を下ろす。
もうすっかりなじんだ感触が、あたしの中に入ってくる。
まるでヒモかと見まがうような彼だが、その点はともかく、同棲相手と考えればいたって普通な光景だろう。
ただ、あたしと彼は、決して普通じゃない。
それは、彼があたしの実の兄だからだ。
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兄があたしのマンションに転がり込んできたのは、半年ほど前のことだ。
社会人になって4年目、一人暮らしを満喫していたあたしのもとに、唐突に実家の両親から電話がかかってきたのが事のはじまりだ。
「…それでねえ、兄ちゃん、そっちで仕事探すって言ってるの。見つかるまであんたの部屋に置いてくれない?」
「えーっ…見つかるまでって言ったって、まだ見通しは全然ないんだよね」
「そうなんだけどねえ…こっちでノラクラさせとくよりはマシだし。じゃあ頼むわね」
「ちょ、ちょっと!」
電話は切れてしまった。言いたいことしか言わない両親の態度は、昔から変わらない。
それっぽいことを言ってはいたけれど、親としては厄介払いくらいの気持ちだったのが実態だと思う。
そして、その数時間後には、かつて以上に社会的にどうしようもない立場になった不肖の兄が、大きな荷物を持ってあたしの部屋のイヤホンを鳴らしたというわけだ。
それからいろいろあって、あたしと兄は現在のような関係に至っている。
なんでそういうことになってしまったのか、今日は思い出話も交えながら、今までの経緯をつらつらと綴ってみたい。
兄は、子供の頃からダメだった。
とはいっても、別になにもかもが駄目というタイプだったわけじゃない。
確かに勉強や運動はどれもことごとく苦手だったけれど、それだけなら別に珍しいことでもない。
それに、友達づきあいなんかは不器用なりになんとかこなしていたから、社会性がないわけでもない。
ただ、妹のあたしからみても、兄は気力というものがすっぽり抜けていたし、どこかボーっとしていて地に足が付いていない感じだった。
でも、それは本人のせいばかりかは微妙なところだ。
親は妹のあたしばかりを可愛がった。あたしも凡人に過ぎないけれど、人並みには要領がよかったから、まだ見込みがあると思ったのかもしれない。
兄の友人たちも、友人とはいうものの、兄を一段下にみるのが常だったみたいで、実際学校でおもちゃにされる兄を見たことだって一度や二度じゃなかった。
そんな扱いをずっと受けていれば、気力が萎えない方がおかしいし、現実を見る気だって起こらなくなるだろう。
少なくとも、あたしだったら耐えられない。
そんな扱いに普通に耐えきってしまうところが、兄の長所だった。
プライドの問題だったのかもしれないけれど、卑屈になったりはしなかったし、お気楽な態度を崩すことはなかった。
だけど、いくら耐久力が高くたって、それだけで渡っていけるほど世の中は甘くない。いざ学校を出てから、彼のダメっぷりは最大限に露呈した。
細かいことを言うとキリがないけれど、結果だけをいうなら進路がまったく決まらない。
その挙句に、兄は問答無用で無職のプータローになってしまった。
親は頭を抱えていたけれど、兄はやはり飄々としていたし、あたしもなるべくしてなった結果だと思った。
兄はそもそも期待されていなかったから、その通りになっただけのことじゃないか。むしろ、あたしは兄に同情していた。
とはいえ、あたしの反応も一般的なものじゃないとは思う。
妹の立場からすれば将来への厄介な種がひとつ増えちゃったことになるんだから、もう少し反感をもってもおかしくないはずだ。
それを感じなかったのは、多分、あたしと兄がなんだかんだでいい関係だったのが大きい。
重い雰囲気になってもおかしくない中でそれを感じさせない兄のことを、あたしはダメな人とは思いながらも嫌いになれなかった。
それに、理由はもう一つある。あたしと兄は、この時点でもう、普通の兄と妹の関係ではなかったからだ。
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そもそものはじまりは、兄が自分の部屋を与えられなかったことだ。
女の子という事もあってか、親はあたしには早々に個室を与えてくれたけれど、兄については思春期になってもなしのつぶてだった。
兄は、うちの家族で唯一、自分の部屋を持っていなかったのだ。
あたしとしては気まずかったけれど、かといって相部屋というのも年頃の女の子としては少し嫌で、だから何も言えなかった。
当時から兄がいかに期待されていなかったかのひとつの現れなのだけれど、兄はそれに異議を唱えることもなく、居間などで本を読んだりゴロゴロしたりといった暮らしをしていた。
とはいえ、いくら呑気な兄でも、それで困ることがないわけもない。
自分の本やおもちゃだって好きに置けるスペースがないわけだし、それ以上にプライベートというものがない。
彼が唯一、完全に両親やあたしの目を逃れられる場所といえば、お風呂かトイレくらいしかなかったのだ。
だから、彼のオナニーをあたしがたまたま真正面からみてしまったときも、あまり非難する気にはなれなかった。
その日、朝寝坊したあたしはまだ朦朧としたまま、何の気なしにトイレのドアをあけ放った。
両親は外出していて留守だったし、兄の姿もなかったから、あたしはてっきり誰もいないのだと思っていたのだ。
なにより、トイレの鍵はかかっていなかった。それは兄の、その日に限ってのただのうっかりだったのだけれど、何かがおこるきっかけなんてこんなものかもしれない。
あけ放ったドアの先には、トイレの便座にすわって、ち●ちんを片手で握りしめた兄の姿があった。
「…」
「…」
あっけにとられて、あたしと兄は見つめ合っていた。即座には反応できなかったのだ。
男の人のオナニーなんて見るのはもちろん初めてだったし、勃起した状態のち●ちんだって、話は聞いていたけれどこの目でみるのははじめてだったから、仕方がないだろう。
もちろん兄だって、そんな姿を見られるなんて予想もしていなかったはずだし、愕然とした表情をしていた。
時間にすると数秒間程度だったと思うけれど、感覚的には相当長い時間見つめ合っていた気がする。
「ご、ごめん!」
あたしは尿意も忘れて、慌ててトイレのドアをものすごい勢いで閉めた。
トイレのドア越しに、兄の声が小さく聞こえてきた。
「わ、悪い…すぐ出るから…ちょっと待っててくれ…」
「い、いいよ、慌てなくても…ゆっくりでもいいよ…」
「い、いや…すぐ出るから…」
お互い、とぎれとぎれにしか言葉が出てこなかった。
兄の動揺は当然だし、あたしはあたしで心臓の動悸がおさまらない。
手早く処理したのか、それとも中断したのか。
言葉どおり、1分もたたないうちにトイレを流す音が聞こえ、兄が出てきた。
「…待ったか?」
「…う、ううん…大丈夫だよ…」
兄と入れ替わりにトイレに入っても、あたしはさっき見た光景が忘れられなかった。
上を向いて、先端がなにか透明な液体で光っている兄のち●ちんが、まるでネオンサインのように、頭の中で繰り返し繰り返し明滅していた。
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部屋に戻って服を着替えても、まだ心臓がバクバクいっていた。
はじめて見た、男の人のオナニー。しかも、相手は兄だ。印象の強さは申し分なかった。
下に降りると、兄はソファに腰かけて新聞を読んでいた。
とはいっても、記事に集中できていないのは一目瞭然で、入ってきたあたしの様子をちらちらと横目で伺っている。
あたしはテーブルに座ったものの、居心地は悪かった。
もともと仲が悪い兄妹というわけじゃないだけに、なおさらだった。
「あー…さっきは悪かったな、あんなん見せちまって」
「いいよ…あたしもいきなりすぎたし」
とりあえず先ほどの非礼をお互い詫び合ったものの、それで状況が変わるわけでもない。また沈黙の時間が訪れた。
空気に耐え兼ねたあたしは、割り切って捻りなしでさっきの話を続けることにした。
こうなったら、笑い話として片づけるしかないと考えたのだ。
「兄ちゃんさあ、いっつもトイレでしてるの?」
「まあ…そりゃなあ。まさかここでするわけにもいかないだろ」
「そりゃそうよね」
確かに、ダイニングキッチンで堂々とオナニーされても困る。
お風呂とかでされるのも心理的に抵抗があるし、そう考えたらトイレは一番無難な場所と言えた。
「まあ、トイレくらいは大目に見てくれよ。溜まるもんは溜まるんだからさ」
「そうらしいね。男って。あたしにはわかんない話だな」
「女って溜まんないのか?」
「溜まるって感覚はないなあ…しなくても、そんなにつらいわけじゃないし」
あたしも自室でオナニーしてみたことはあった。
ただ、確かに気持ちはよかったのだけれど、それ以上のことはなかった。コツが掴めなかったし、何より一人でするというのが何とも空しかったのだ。
だから、あたしのそれは過去一度限りで終わったままだった。
ただ、兄はあたしの話しぶりがいたく気になったらしく、食いついてきた。
「ちょ、その言い方って…お前もするのか?」
「したっておかしくないでしょ。あたしだってあんたとちょっとしか歳、変わらないんだし」
「…そう言われればそうだけどな…」
新聞で隠れて、兄の表情ははっきりとは見えなかった。
ただ、先ほどまでとは少し雰囲気が変わった気がした。声に動揺が見て取れる。
「…じゃあ、あれか?ま●こをこう…いじったりするのか?」
そんな精神状態ゆえの言葉だったのだろうけど、そのものすごいセリフにあたしは一瞬返事ができなかった。
それから、言い返した。
「ちょ、直接すぎでしょ!」
「他に言いようないだろ」
「言わなきゃいいじゃない、最初から!」
「…ああ、そうだな」
「そうだよ、もう…兄ちゃんっぽくないよ」
「俺っぽくない、ねえ…そういうわけじゃ全然ないんだけどな」
呑気さが美徳の兄だけに、スケベなところはあまりあたしの中のイメージと合わない。
ただ、兄の言う通りそのイメージはあくまでイメージの中のことでしかないんだろう。だいたい、さっきあれだけ勃起していたのだから。
ただ、そう思ったら、どうにも変な気分が強まっていく。
あたしは兄につられるように、どぎつい言葉をごく自然に口にしていた。
「…まあ、そうだよね。さっきびっくりしたもん。大きすぎて」
「そりゃ、昔とは違うからな。スケベにもなるってもんだよ」
「スケベな兄ちゃんかあ…ちょっと想像できないけど、じゃあなに、こういうのに興奮しちゃったりするの?」
スカートを軽く自分でめくり、ひらひらさせてみせた。
軽くとは言っても、下着くらいは見えていただろう。でも、あたしとしては冗談のつもりだった。
別に兄に見られるのは恥ずかしくない。そんな関係でもなかったし、あたしはきっと兄も軽く否定してくれるものだと思ったのだ。
けれど、兄の反応は、あたしが予想したものとは正反対だった。
「あー…まあ、興奮するわな、それは」
軽い声ではあったけれど、その一言にあたしは思わず身体が硬直した。
新聞の向こう側の兄の目つきは、どうみても普段とは違っていた。
クラスの男の子たちが、時折あたしたちに向ける視線。スカートがめくれてしまったときとかに見開かれる彼らの目つきと、兄の目つきはそっくりそのまま、同じだった。
性欲の対象をみるときの、いやらしい目線。それが兄から向けられていることを、頭で受け入れるまでには少し時間がかかった。
「ちょ、な、なによあんた…どうしちゃったのよ」
ただ、言っていることの非常識さの割に、あまりにも兄は淡々としていた。
目つきはともかくとして、言動自体は普段の飄々とした雰囲気のままだ。
「まあ、どうかしてるとは思うけどな。でも、相手がお前ってこと以外は、下着とかま●こに興味あるのは、そう変でもないだろ」
「えー…そう言われても…抵抗あるなあ」
兄特有の軽いノリのせいで、あたしは混乱しながらも普通に返事を返していた。
嫌悪感とかは、特にわかなかった。
「悪いな。でもまあ、こればっかりはどうしようもないからな…。あ、そうだ」
兄は、ふと何かを思いついたように言った。
「どうしたのよ」
「あのさ、こういう機会だから言うけど、ま●こ見せてくんない?」
「はぁ?!ちょっと、正気?」
「きついねえ…いや、お前も俺の見たんだし、俺も見たっておかしくないだろ?」
頭では、拒否しようと思った。
だけど、あたしは結局、兄のこの、常軌を逸した提案を受け入れた。
考えてみれば、あたしの年頃で兄とこんな会話をしていれば、普通は嫌悪感が湧く方が自然なんだろうとは思う。
それが湧かなかった時点で、あたしもなんだかんだでまっとうな感覚じゃなかったのだ。
変だったのは兄だけじゃない。あたしだって、十分におかしかったのだ。
目を輝かせた兄の前で、あたしは下着を脱いで、足を開いた。
この頃はまだ彼氏ができたことはなかったから、他人の目の前にアソコを晒すなんて、はじめてのことだった。
「…」
事ここに至って、兄はなんだか神妙な顔つきになっていた。
まるで感動しているかのような表情。
興奮しているのは股間の膨らみを見れば間違いなかったけれど、妹であるあたしのま●こを目の前にしてかしこまってしまっている。
その様子をみて、あたしはなぜかおかしくなって、クスっと笑ってしまった。
「兄ちゃん…すごい顔してるよ」
「それはそうだろ…これは…」
兄にはそうかもしれないけど、あたしにとってはありふれた自分の身体の一部だ。
いやらしさなんて感じようもない。だからこそ、かえって兄の感嘆の顔は滑稽でさえあった。
「…そんなにみたかったわけ?」
「当然だろ」
「一応言っとくけど、妹のだよ?今あんたが見てるのって」
「関係ねえよ」
関係なくない!と言いたいのは山々だけれど、あたしはもうそれを口にしなかった。
それよりも、兄のらんらんとした目を見ている方が楽しかった。
いざ一度見せてしまうと、それまで感じていた抵抗感はふっと消えてしまっていた。
それどころか、自分のアソコにここまで兄が興奮しているという事自体に満足感を覚えていた。
もっとも、舐められたときはさすがにびっくりしたけれど。
「ちょっと待って、それ、やり過ぎっ!」
「ひひからひひから」
ぐちゅっ。
兄の舌とあたしのあそこの襞が絡まり、唾液だかあたしの体液だかが、変な音を立てた。
「ちょ、ちょっと待って、タンマ、う、動かさないでっ…あっ!」
結局、この日あたしは兄に舌でイカされた。あたしがはじめて感じた、絶頂だった。
それからというもの、あたしと兄は、両親の留守の際には決まってこの遊びに耽るようになった。
最初はクンニだけだったけれど、慣れてくるとあたしも兄のち●ちんをフェラするようにもなった。
最初はその異様な形に驚くばかりだったけれど、慣れてしまえば兄のち●ちんを咥えるのが楽しみになったんだからわからないものだと思う。
あたしもすっかりハマっていたから、もう兄のことをどうこう言える立場じゃなかった。
自分の部屋に兄を呼び込んで、ベッドの上で親がかえってくるまで数時間にわたり、お互いの性器を貪りあった。
こんなことしてて親に悪いなあ、といううしろめたさはあったけれど、やめられなかった。
妹に性欲を向けたという致命的な一点はともかくとして、兄は兄なりに良識は持っていて、最後の一線だけは超えてこなかった。
だから、あたしは兄を信頼していた。
日常生活での兄のダメっぷりは全然変わらなかったけれど、あたしは次第に、兄に単なる家族という以上の愛着を感じるようになってきたのだ。
愛情とか、そういうものじゃなかったと思う。けれど、兄妹で楽しむ秘密の時間は、純粋にあたしにとっては至福だった。
もっとも、その時間が続いたのはあたしの上京までだった。
さすがに下宿にまで兄をたびたび招くというのはどうかと思ったし、兄もそのころには状況の悪化が明らかになってきていたから、それどころではなかった。
以来十年弱、兄との関係は途絶えたままだった。
*****************************
そんなときに、兄と同居することになったのだ。
兄の到着を待つ数時間の間、あたしがどういう心境だったか想像してみてほしい。相当、複雑な気持ちだった。
兄は十年の間にますますどうしようもない立場になっていた。
数年前に帰省したときに一度会ってはいた。その時には様子はさほど変わっていなかったけれど、その後がその後だ。いい意味で変わっている可能性は低かったし、同居するとなるとますます話がややこしい。どうなることかと思った。
だから、ドアを開けて入ってきた久しぶりの兄が、やはり飄々としたままなのに、あたしは内心安堵した。
「よう、久しぶり…元気そうだな」
「兄ちゃんも…思ったより元気そうで、よかったよ」
「まあ、な。迷惑だろうけど、よろしく頼むわ」
ただ、安堵していられたのは、数日間だった。
昔はともかく、今はお互い成長してしまっている。
あたしもそんなに余裕がある生活ではなかったから、どうしてもアラが見えてしまう。
そして、兄のダメっぷりは残念ながらやはり筋金入りだった。
変わらないようには見えても、長年ダメな奴という扱いを受け続け、しかもその通りの結果しか残せずにきた兄だ。昔以上に無気力さが際立っていた。
一応上京の目的である面接には何度も出かけているようだったけれど、やはりそんな雰囲気は隠せないのだろう、落ちてばっかりだった。
そんな調子だったから、兄との同居はみるみる期間が延びていった。
何度か兄のいないときに、両親に今後のことを相談してみたけれど、なしのつぶてだった。
多分、彼らはこの結果を予想していたんだろう。その上であたしに面倒を全部押し付けたんだから、たいした根性だと思う。彼らにとって、兄は厄介者で、あたしはその厄介者を押し付けるいいカモだったというわけだ。
むしろ両親からすれば、せっかく育ててやったのにどうしてこんなことに、くらいの気持ちだったかもしれない。
けれど、親の心情はどうあれ、あたしの側からすれば困ったどころの話ではなかった。
ただ、その反発心からか、あたしは今度こそ、両親へのうしろめたさを感じることはなかった。
それ以前に、いちいち背徳感を感じるほどの余裕は、あたしには残っていなかった。
だからこそ、あんなちょっとしたきっかけで、大胆なことができたんだと思う。
あたしたちがこれまでずっと避けてきた最後の一線を越えたのは、兄の来訪から2か月がたった夜のことだった。